History 第九章 拡張期(平成中期)創業100年を迎えて

イヨテクニカルの傘下入りとサイバーとしての発展

「イヨテクニカルを、Ⅿ&Aで傘下におさめませんか?」
この話を持ちかけてきたのは、伊予銀行であった。「同社は、生産設備の自動化や省力化、それに伴う計測制御など、電気・電子の分野で幅広い技術を持っています」

イヨテクニカルは、昭和43年(1968)に有限会社伊予電子として設立されて、平成2年(1990)に株式会社イヨテクニカルに改組・社名変更。松下寿電子工業株式会社のVTR関連の電子機器を製造するなど、高い技術力を有する新居浜の企業であった。
「電気・電子では、わが青野海運グループの運送とは関連がありません」

青野正社長は、当初この話に関心を示さなかった。
「グループに異業種を加えることで、経営の幅が広がるのではないでしょうか?」

伊予銀行から何度も打診された。
『これからは、異業種の眼をもって経営にあたることも有益かもしれない』
熟慮の末、青野正社長が決断した。

株式会社イヨテクニカルの参画

平成6年(1994)12月1日、株式会社イヨテクニカルが青野海運グループに加わった。

イヨテクニカルの概要は、次のとおりである。
代表者は青野光年。所在地は新居浜市高木町。事業内容は電子回路の設計・製作、自動制御装置の設計・製作、マイコン応用電気機器の設計・製作、産業用ロボットの設計・製作、電子応用医療機器の開発・製造。主要製品は各種自動制御省力化機器。
青野正社長は、青野海運グループにイヨテクニカルを加えて、新たな歴史を刻んでゆくことを明言した。
「12月1日をもって、グループに新しいメンバーが加わりました。株式会社イヨテクニカルであります。社長は青野光年が勤めますので、よろしくご指導賜れば幸いです。事業内容につきましては、電子関連の設計、施工、自動化に対するソフトやその機械の設計など、ハイテク関連の技術は十分に持っております。一日も早くグループにとけ込んで、その力を十分に発揮していただきたいと思っております。

「自分は独立して、1人でやっていく」
イヨテクニカルの社員のなかには、辞める者も多かった。
当時の社員の動向と自らの心情を、永年イヨテクニカルのプロパー社員として苦労し、後年サイバーの社長に昇格した河端和行は、次のように回想している。
「青野海運グループに加わる時、さらに加わって少しして、総勢15名ぐらい退職した。私は退職した人たちに対し、『絶対この会社で彼らに勝つんだ!』と強く思った。サイバーを発展させて、辞めていった人たちを見返してやりたい」(サイバー社長 河端和行「青野海運130周年」)

株式会社サイバーの誕生

平成9年(1997)、株式会社イヨテクニカルは、本社を高木町から中村松木へ新築移転し、名称を「株式会社サイバー」に変更した。

サイバーの社員たちは、河端和行を中心にしてがむしゃらに働いた。
「昔の労働環境は、残業無制限。自分自身も、電子回路の設計、製作、その後はプログラミングと行ってきたが、がむしゃらに働いた。連日連夜の残業、休日出勤。月の残業時間が120時間・150時間と、今なら『完全にアウト』という時代もあった」(サイバー社長 河端和行「青野海運130周年」)

平成17年(2005)、サイバーは、青野正会長・河端和行社長の新体制となった。
青野正会長は、持ち前の包容力で、サイバーを「大きく見守って、大きく包んでくれる」存在であった。
「私たち株式会社サイバー社員一同は、お客様の第一を考えながら、誇りと自信を持って誠心誠意仕事に励んでいます」
河端和行社長が、社員たちと共有しているモットーである。

サイバー発展の基礎を築いたのは、住友重機械工業株式会社の3大プロジェクト(大阪大学のサイクトロン、日本原子力研究所の加速器、放射線医学総合研究所の重粒子線装置)である。この3大プロジェクトの請負仕事から、医療関係の装置、重粒子、陽子線、PETなどへ事業を展開していった。

平成27年(2015)、サイバーは、トヨタ生産方式の改善活動に取り組み、「整理整頓」を業務の基本に据えた。改善活動について、サイバーの佐々木秀幸執行役員は、次のように回顧している。
「生産性向上と納期短縮と全社員が常に品質向上意識を持つための職場環境の整備の取り組みとして、平成27年(2015)10月からトヨタ生産方式のカイゼンマスターに指導を受けながら、改善活動を行いました。初めは製造部署のみでスタートしましたが、活動が進むにつれて全社挙げての改善活動になりました。最終報告会で活動結果をカイゼンマスターに認めていただき、報告会のために作成した報告書が、最新成功事例として、日刊工業新聞社発行の『工場管理』(2017年11月号)に8頁の特集記事として掲載されました」
(サイバー執行役員 佐々木秀幸「『工場管理』に改善活動の記事掲載」)

河端 和行社長

自動硬化時間測定装置「まどか」を開発

「自社製品が欲しい!」

社員の熱い思いを結集して、自動硬化時間測定装置「まどか」を開発した。
「まどか」は、樹脂の硬化(ゲル化)時間を自動で測定するための装置である。手動で測定すると、手で樹脂を混ぜ(攪拌)、ゲル化時間(Gel Time)を各々の判断で判定するため、データにばらつきが生じる。「まどか」で測定すると、攪拌スピードや湿度などはパラメータ化され、ゲル化時間は装置のトルクで判定するため、再現性のあるデータの取得が可能である。

自動硬化時間測定装置「まどか」

新型ゲルタイム測定装置「しずか」を開発

「まどか」は、展示会に出展してアピールを図るなど、国内市場はもとより、韓国、台湾、中国、タイなど、広く海外市場を視野に入れて拡販に努めている。

さらに、近年は樹脂が多様化して「まどか」では測定できない樹脂が出てきたことから、新型ゲルタイム測定装置「しずか」を開発した。開発には、5年の歳月を費やした。折しもコロナ禍であった。「しずか」は、5GやIoTの普及拡大で需要が高まる半導体分野に使われる樹脂の測定が可能な「優れモノ」である。

また、国立がん研究センターの陽子線治療装置、放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置、京都大学原子炉研究所のBNCT装置、大阪大学核物理研究センターのリングサイクトロン加速器実験装置、広島大学放射光化学研究センターのシンクロトロン放射光実験装置、理化学研究所仁科加速器研究センターの超電導リングサイクロトロン実験装置などには、サイバーのソフトや機器が組み込まれている。
愛媛県のホームページでは、『えひめが誇るスゴ技企業(215選)』としてサイバーが紹介された。

「世にないものを作る」
サイバーの河端和行社長の挑戦は続く。「辞めていった人たちを見返すため、そして青野正会長の恩義に報いるため、サイバーを発展させ、知名度を上げ、業績を大いに向上させて、地域社会において大きな存在感を示したい」

新型ゲルタイム測定装置「しずか」
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