History 第十章 展開期(平成後期~令和)外航海運に本格進出

外航への本格挑戦

外航海運では、平成9年(1997)に青野正社長が建造を命じた「リリウム ガス」を嚆矢として、21年(2009)に購入したプロダクトタンカー「TORM AMAZON(トーム アマゾン)」の運航で、貴重な経験を積んだ。
「トーム アマゾン」は、シンガポール船籍であった。同船は、デンマークの海運大手トーム社の要請で、ペトロブラス(ブラジル石油)のガソリンなど、白物製品を輸送した。青野海運では、「トーム アマゾン」を運航することで、外航海運という難事に挑戦するためのスキルやノウハウ、知見などを手に入れることができた。

青野力常務は、外航への挑戦を振り返った。
「父の青野正が社長を務めていた平成10年(1998)頃に貸渡業を開始したのと同時に、シンガポールに営業拠点を構えて近海船の運航を手がけたのが、外航事業の振り出しだ。

しかし、事業が軌道に乗らず、平成17年(2005)に一旦全事業から撤退。その外航船の最後の売船などの手仕舞いを、ちょうどその時期に新居浜に赴任した私が担当した。海運ブーム期の船価上昇で相応の売却益を得たが、これには手を付けず、将来の再進出に備えてプールしておくと決めた。

売却益をすぐに外航船に再投資することも検討したが、発注ブーム期の船価高騰で手が出せず、これは数年後に『リーマン・ショック』が起こったことを踏まえると結果的に良かった。その後、平成21年(2009)のプロダクト船一隻のBBC(裸貸船)による保有を足掛かりに、平成25年(2013)からバルカーのTC(定期傭船)を本格的に手掛けて事業を拡大し、現在に至っている」

平成25年(2013)は、「株高」「円安」の歴史的な値動きの年であった。
日経平均株価は、年間で57パーセント上げという上昇率を記録し、円は1ドル=105円と「円安」水準を付けた。「株高」「円安」が進んだ背景には、黒田東彦日銀総裁が打ち出した大規模な金融緩和や、安倍晋三首相が進める経済政策「アベノミクス」効果で、脱デフレが実現するとの期待があった。

新造船「LUMINOUS NOVA」の命名式

この年の4月24日、新造船「LUMINOUS NOVA(ルミナス ノヴァ)」の命名式が挙行された。
「ルミナス ノヴァ」は、三井造船千葉事業所で竣工した青野海運待望のバルクキャリア(外航ばら積船)である。総トン数31,751トン、積貨重量56,103トン、全長190メートル、航海速力14.5ノット、船籍マーシャル諸島で、乾汽船からの要請と伊藤忠商事の仲介により建造した。

船名の「ルミナス」は、「光を発する、光る、輝く」という意味で、「ノヴァ」は、「新星」を意味ずるラテン語である。青野海運では、これまで内航船の「光輝丸」シリーズを整備してきたところであり、新造の外航船にも「光る、輝く」という意味を持たせた。
「宇宙で急激に明るさを増す〝超新星〟にならい、青野海運がますます発展しますように。また、本船にかかわる皆様に輝きをもたらす〝新星〟でありますように」
青野力常務が、こうした願いをこめて命名した。
竣工の命名式には、青野正・則子夫妻はもとより、青野力常務が一家をあげて出席した。支綱切断の大役は、満7歳になった長女の愛梛が立派につとめた。

「ルミナス ノヴァ」のオーナーである青野海運は、オペレータから受け取る傭船料のなかから、船員の人件費、潤滑油費、船体・機関の修繕費などの運航原価を支払い、銀行に元利金を支払い、さらには本社経費を差し引いて、その残りが利益となる。

傭船料がUSドルで、支払いが円の場合は、為替リスクが発生する。例えば、月間収入が50万USドルの場合、円貨ベースで為替相場が100円のときには5千万円、80円のときには4千万円となる。
つまり、「円安」であるほど円貨に換算したときの実質収入が多くなる。現実には、船員の人件費や修理費などの運航原価を、USドルで支払うことで為替リスクは軽減されるが、銀行からの借入金は円で返済するので、その部分については青野海運がリスクを負わなければならない。
幸いにも「ルミナス ノヴァ」は、これまでの「円高」が解消されて、当初想定したより「円安」の時期に運航を開始することができた。「ルミナス ノヴァ」は、命名どおり青野海運を大きく発展させて、関係者に輝きをもたらす新星となった。

青野海運は、「ルミナス ノヴァ」を皮切りに、新造船を定期定量的に発注することで、青野海運の船隊整備を着実に進めていった。

LUMINOUS NOVA
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