History 第十章 展開期(平成後期~令和)外航海運に本格進出

安全管理と新型コロナウイルス対策

外航海運は、エマージングリスク(地政学的リスク・気候変動リスク)はもとより、業務遂行上のリスク(運航・操業リスク、災害・疾病リスク、人権にかかわるリスク、サイバーセキュリティリスク、為替・金利・燃料油変動リスク)など、様々なリスクに備えなければならない。

事故の発生と安全管理について、青野海運の役職員は、次のように回想している。
「私が入社して数年後、年末の夜に『第一金光丸』が岸壁に衝突。そのまま傾斜状態となり、横転防止策の甲斐もなく、翌朝の干潮時に横転しました。その後、船体をサルベージ会社に救助させましたが、『修繕復旧するか』または『代船を建造するか』の判断が二転三転して、最後は、青野正社長(現・会長)が、青野重馬会長を説得して、代船に決定したと聞き及んでいます」
(青野海運安全運航本部長 田村伊佐雄「130周年事業の回想・体験談」)

 

「私がアトラスに勤務していたときは、誤納入誤納品、破袋、破損等の小さいトラブルから、死亡事故まで対応しました。私が青野海運に異動してからは、海洋汚染、衝突事故、被液災害、死亡災害など、数々のトラブルに対応しました。20年間のトラブル対応のなかで、特に私が意識していたことは、『現場に向かう』と『真の原因追及』です。刑事ドラマでよく言いますが、現場を見ないと分からないことがたくさんあります。現場を見て、話を聞くと色々なヒントが落ちています。真の原因を追究する場合、特に意識したのは『思い込みを捨てる』ことです。現場を見て話を聞くのは、思い込みを減らすことに繋がります。私自身20年の経験をまとめると、トラブル対応では、『現場を見ること、現場で聞くこと、思い込みを捨てること、真の原因を見つけること、色々な意見を述べること』が大事だと学びました」
(青野海運安全運航本部安全企画部部長 真木慎一「仕事で思い出に残るエピソード」)

 

現場では、職員の急病から機器の故障まで、様々な事案が発生する。
「私が入社して8ヶ月で上司が急病で離脱し、上司に代わって現場責任者を任されたため、休日返上で働き、色々な設備について住友金属鉱山の職員の方に頻繁に聞くなど、必死でした。悪いことは続くもので、その年の台風でエアコンの室外機が飛んでいき、2ヶ月ほど使用できなかったときは、何度も熱中症になりそうでした」
(青野海運営業本部船舶代理店部内航課課長 秋月浩二)

 

令和元年(2019)末からの新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済に大きな混乱をもたらした。
フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの制限や、人の移動の停滞によって、生産活動や物流が止まり、物資の不足が生じた。国際分業の進展により、国境を越えるサプライチェーンの途絶が発生するとともに、ロックダウン(都市封鎖)や営業自粛に伴って、エンターテインメントサービスや飲食店のイートイン営業が停止された。さらに、感染拡大の抑制のための外出制限や自粛、渡航制限などによって、観光や宿泊、航空などの人と人との接触が避けられないサービスでは、前例のない規模で需要が縮小した。物については、耐久財の需要が急減する一方で、オンライン消費や巣ごもり消費の拡大など、新たな消費の胎動がみられた。
新型コロナウイルスの感染拡大は、港湾混雑、沖待ちによる輸送遅延をはじめ、海上輸送に様々な混乱と障害をもたらした。船は、特殊な閉鎖空間であることから、乗組員に1人でも感染者が発生すれば、感染は拡大する。
青野海運では、船員の感染拡大の防止、船員の交代・移動、隔離施設の確保など、新型コロナウイルス対策に懸命に取り組んだ。

「我々の使命は、大事な物流を止めないことだ!」
青野海運は、全社一丸となって、コロナ危機を乗り切った。

 

コロナ禍の辛苦を、青野海運の役職員は、次のように回想している。
「令和2年(2020)、全世界で流行していた新型コロナウイルス感染症が国内でも拡大して、当社所属船も感染者が発生し、船を停船せざるを得ない状況になりました。感染拡大初期は、未知のウイルス病という認識が強く、感染者に対する風評被害があったり、また、荷主さんにエッセンシャルワーカー(医療や福祉、物流などの緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者)に対する特別措置なども浸透していなかったと記憶しています。船員の乗換や隔離施設確保など、船員部にも尽力してもらって対応し、乗り切りました」
(青野海運営業本部内航営業部東京支店課長 伊藤駿徳「仕事で思い出に残るエピソード」)

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