History 第九章 拡張期(平成中期)創業100年を迎えて

渡邊運輸の傘下入りと陸送・倉庫部門のアトラス統合

渡邊運輸株式会社の渡邊秀雄社長が、青野正社長に事業譲渡を持ちかけてきた。
青野正社長と渡邊秀雄社長とは、住友化学の輸送業者として顔馴染みであった。渡邊運輸は、事業承継問題を抱えていて、この話を持ちかけてきたのである。
渡邊運輸は、鉄道利用輸送の通運事業と岡山・広島・一部兵庫の陸上輸送を、事業の両輪としていた。このうち鉄道利用輸送の通運事業は、住化ロジスティックスを介して住友グループの貨物を中心に近隣市から集荷した貨物を、鉄道輸送に載せるものであった。

折しも青野正社長は、陸送・倉庫部門の強化に力を入れていた。丸重商事を中心にして、倉庫「アトラス」を建設して倉庫業に進出するとともに、倉庫への荷物の集配を行う陸送事業を興し、さらに前年には、グループ本社の青野海運そのものが「一般区域貨物自動運送事業」の認可を得て、丸重商事から自動車運送の営業権を譲り受け、本格的に非海運事業の規模拡大を図ろうと考えていた。
「渡邊運輸の事業譲渡は、青野海運にとって時宜に適う申し入れだ」
青野正社長の決断は早かった。

平成13年(2001)10月、青野海運が、渡邊運輸の全株式を取得して、青野海運グループの傘下に加えた。翌年(2002)4月には、青野正が渡邊運輸の代表取締役に就任し、渡邊秀雄は顧問に就いた。

さらに平成15年(2003)1月、社名を渡邊運輸株式会社から「株式会社アトラス」に変更。4月には、青野海運の陸送・倉庫部門をアトラスに統合して、業務の集中と専門化を図った。「アトラス」は、「AONO TRANSPORT STATION」を簡略化した名称であるが、ギリシア神話に登場する神の名前にも通じる。

草創期の辛苦を、アトラスの佐伯洋光社長は、次のように述懐している。
「ここまで全てが順風満帆ではなく、構造改革による離反消滅や承服し難い輸出案件の消滅が区域輸送にも波及し、壊滅的な減収を余儀なくされたこともあった。しかし、一番ダメージを受けたのは乗務員だったが、私に不満を一切言わず、誰一人辞めることなく、信じてついてきてくれたことが大きな励みとなり、それから約3ヶ月の期間を要したが、無事難局を乗り越えられて、少しだけ乗務員に恩返しができたと安堵した」
(アトラス社長 佐伯洋光「創業130周年を記念して」)

佐伯 洋光社長

アトラスと積水ハウスの資源循環ビジネス

積水ハウス株式会社は、持続可能な社会の実現に貢献するため、「サステナブル」を企業活動の基軸に据えている。平成11年(1999)には、時代に先駆けて「環境未来計画」を発表して、廃棄物を「埋立しない」「単純焼却しない」ことで、100%リサイクルするゼロミッション活動を開始した。
「積水ハウスが、資源循環センターを四国に立ち上げる」
この情報を入手したアトラスが動いた。

「平成16年(2004)、5代目となる青野力取締役がアトラスの常勤となった。今でこそ言えるが、それまで年上のオーナー(青野重馬会長・青野正社長)に仕えて、多少甘えのあった私は、初めて年下のオーナー(青野力取締役)に接して、正直なところ戸惑いと不安があった。しかし、その不安を一掃する案件が発生した。『積水ハウスが〝サステナブル〟をスローガンに掲げ、平成17年(2005)に3Rを主眼とした資源循環センターを四国に立ち上げる』との情報を得た。即座に私と青野力取締役の2人で、積水ハウス山口工場に出張し、ヒアリングした結果、立ち上げには新たな倉庫が必至のいわゆる投資案件。私と青野力取締役は、新居浜駅に降り立つと、その足で青野正社長宅へ直行し、テント倉庫建設を直談判して、即決していただいた」
(アトラス社長 佐伯洋光「創業130周年を記念して」)

今日では、誰しもが「SDGs」「サステナブル」という言葉を口にする。しかし、資源循環センターの案件は、平成27年(2015)に国連総会でSDGsが採択される10年以上も前のことである。時代を先取りした佐伯洋光取締役と青野力取締役の〝慧眼〟、そして案件を即決した青野正社長の〝器量〟がもたらした新しいビジネスの成功例といえよう。

アトラスは、積水ハウス株式会社の資源循環センターのほか、住友金属鉱山株式会社の燃料電池(正極材)など、情報を入手すると、直ちに積極的な営業活動を展開して、新しいビジネスに繋げた。

こうして業容拡大を図るとともに、企業体力の向上に努めた。佐伯洋光社長は、次のように回想している。
「当時、アトラスが使用していた土地及び倉庫は、青野海運の名義で、賃貸契約を締結していたが、青野力取締役から『自社買取してはどうか?』との甘いささやきがあった。アトラスの固定資産は車両程度で、企業体力に欠けていた。土地及び倉庫を取得すれば、固定資産の増加に伴って、金融機関からの信用も増す。そこで、資金面ではいささか苦労したが、平成19年(2007)3月、遂に念願の土地及び倉庫の所有権移転が完了した」
(アトラス社長 佐伯洋光「創業130周年を記念して」)

日々の業務を遂行する上で、トラブルの発生を避けて通ることはできない。
トラブル処理について、アトラスの役職員は、次のように回想している。
「特に重大なトラブル――納入先構内で燃料漏洩を発生させたとき、翌日に東京出張を控えた青野力社長が当社に来られ、トラブル報告、再発防止策の作成にお力添えをいただきました。朝方の時間ギリギリの帰宅時に『トラブルはダメだが、誰にもケガがなかったから、良しとしよう』と仰いました。今でもこの一言が強く残っています」
(アトラス営業本部統括部長 眞鍋豊成「仕事で思い出に残るエピソード及び経営者に関わる思い出」)

アトラスの強みと未来展望

平成26年(2014)、アトラスは、青野海運グループ創業120周年を機に青野正会長・佐伯洋光社長の新体制となった。
平成30年(2018)、創業50周年を迎えたアトラスは、成長発展の証しとなる新社屋が完成した。

アトラスの陸上輸送には、4つの強みがある。
①幅広い取扱貨物
危険物や毒劇物を含む化学品・化成品をはじめ、各種原料、精密機器、住宅建材、食料品など多岐にわたる貨物を迅速・確実・安全に届ける。
②中・長距離ブロック圏輸送システム
倉庫拠点のある新居浜市と他都市間の従来型幹線輸送能力の充実とともに、同業他社との連携を図って、九州圏・中国圏・関西圏・中部北陸圏・関東北東圏との相互輸送能力の充実を目指している。
③小口配送システム
四国経済圏の中心に位置する当社の利点を生かし、中・小型車両による小口便配送システムを立ち上げた。
④特殊車両(ユニック車・コンテナ車)輸送
自社で荷物の受け入れ・納入が可能なユニック車量を導入して、特にニーズの多い住宅等の建材物流で活躍している。また、JR貨物用コンテナを積載可能なコンテナ車を導入している。

アトラスの倉庫には、5つの特色がある。
①保管能力と荷捌き能力を両立させた高機能型拠点倉庫
従来型の保管倉庫という枠を越え、プラットホームや荷捌き場を併せ持つ高機能型倉庫である。迅速・正確に仕分けし、ユーザー向けの発想が可能である。
②大口ユーザー向け保管倉庫
ユーザーの増産にいつでも対応できる2階建ての大型倉庫を設置している。徹底した安全品質管理を行い、長期保管も対応可能である。
③保税蔵置場
新居浜をはじめ重要港湾・特定港で取り扱われる外国貨物に対応するため、保税蔵置場を備えている。
④プラットホーム
コンテナ貨物の荷役を行うため、プラットホームを整備している。
⑤テント倉庫
全天候型の荷役スペースを完備して、多種多様な製品保管に対応している。

こうしてアトラスは、ギリシア神話のアトラス神が巨躯で蒼穹を支えるように、青野海運グループの陸送・倉庫部門をしっかり支えている。「今後の希望は、いかに経営をバトンタッチしていくかということである」
佐伯洋光社長は、次世代の人材に期待している。「若い人たちは、いろんな人と出会い、失敗も含めて大いに勉強して、経験を重ね、広い視野を持つ人間に成長してもらいたい。個々の成長が、企業の成長に繋がる。そして企業には、時代とともに〝変化するもの〟と、変えてはならない〝不変のもの〟との2つがある。青野海運グループにとって〝不変のもの〟とは、『社訓十則』である。しっかりと『社訓十則』を踏まえて、青野海運グループに足跡を残すことが、我々の役割であると考えている」

120周年記念祝賀会
一覧へ